彼女は実は男で溺愛で

 静かに息を吐く染谷さんが、私に確認する。

「そう。その人はもしかして『志賀恵梨香』という社員?」

 告げ口をするようで心が痛むけれど、今は気にしていられない。

「はい」

「彼女たちが史ちゃんにした行為の、報復がしたいわけではなく?」

「いえ、まさか。仕返ししたって、意味がないです。それではいつまでも、争いは終わりませんから」

 染谷さんは私の言葉を聞き終えると、表情を和らげて言った。

「よく話してくれたね。該当社員の行動は度々問題になっていたのだけれど、なかなか対策を講じるのが難しくて。史ちゃんにも、つらい思いをさせたね」

 優しい言葉をかけられると、あの時のつらさが蘇りそうになり、言葉を詰まらせる。

「経理課なら佐竹もいるし、都合がいい。その件は安心して俺に任せて」

「はい。ありがとうございます。染谷さんにそう言っていただけて、不安が吹き飛びました」

 お礼を口にすると、彼は少し照れたように言う。

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