彼女は実は男で溺愛で

 地下へは専用エレベーターがあり、その前でエレベーターを待つ。
 エレベーターは下にあったようで、階数の数字が点滅していくさまを眺めた。

 エレベーターが開くと、中には染谷さんが乗っていた。

 偶然に驚いていると、どうやら偶然ではなかったらしい。

「地下にいないから、探したよ。資料室に行くのにも、声をかけて」

「どうして、知って」

「総務課の課長が、市村さんを気にかけてくれていて「地下の資料室は薄暗いから、染谷くん付き合ってあげて」と、俺に」

「すみません。資料を見に行くくらいで」

「いや、地下は確かに薄暗くて心配だから、課長の判断は正しいよ」

 資料室はエレベーターから、向かって右の一番奥。
 扉を開けると、古い紙の匂いがした。

「ノベルティのサンプルはこの辺り」

 染谷さんは、資料室の一角へと案内してくれる。
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