彼女は実は男で溺愛で

「懐かしい。俺がまだ、入社したての頃に考えたノベルティもあるな」

「えっ、どれですか」

 染谷さんの手の中には、可愛らしいリボンがついたヘアゴム。

 ノベルティが付いた服の資料など、関連書類とともにファイリングされていたのは、decipherのイメージであるリボンが、そのままモチーフになっている。

 リボン部分に金属の小さなハートのチャームが揺れ、それがまた可愛らしい。
 チャームにdecipherと刻印してあるのも、すごくかわいい。

「わあ。いいですね。これ。男性が考えたとは思えない」

「ハハ。俺が『悠里さん』だって忘れているね」

「あ、そっか」

 普通に悠里さんの話ができるのは、どうしてか嬉しい。
 別の人のことを話すような、どこか不思議な感じではあるけれど。
< 167 / 390 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop