彼女は実は男で溺愛で
地下からエレベーターに乗ると、繋いでいた手は絡まされ、心臓を騒がしくさせた。
そして、エレベーターが動き出すとともに離された。
「企画書、頼んだよ。市村さん」
彼はいつもの『染谷さん』の顔つきで指示を出し、販売促進課のある2階で降りて行った。
私は絡まされた指先を胸に抱き、エレベーターの壁にもたれるように体を預けた。
鼓動は早いし、恥ずかしいのに、気持ちはふわふわしている。
お陰でエレベーターを降り忘れ、最上階まで乗り過ごしてしまった。
戻ってから、企画書の出し方を村岡さんに教えてもらい、どうにか企画書を出す。
染谷さんにメールで送信すると『企画書ありがもう。チェックする』と書かれた下に、業務連絡のように書かれた一文。
『ボディメイク室を予約したので、終業後行ってください』
私用メールのカモフラージュが、なんだか可笑しかった。
里穂さんと会えなかったから、予約してくれたんだ。
彼の優しさに、胸が温かくなった。
携帯の方には『仕事が終わり次第、俺も行くから、真っ直ぐボディメイク室に行って。くれぐれも、違う部屋に入らないように』と、入っていた。
心配性だなあと思いつつ、心配をかけた前科があるため、文句は言えない。