彼女は実は男で溺愛で

 悩む頭を抱えながら、服を着る。
 先にカウンセリングルームの方に行った里穂さんが、歓喜の声を上げた。

「ヤダ。珍しい。こっちの悠里に会えるなんて」

 え、どういう意味。

 焦る手は、上手く試着室のノブをつかめない。
 なんとか捕まえたノブを引くと、そこには染谷さんがいた。

「染谷、さん」

「ああ、史ちゃん。ボディメイク、終わったんだね」

「え、あ、はい」

 どうして。
 里穂さんが、いるのに。

「久しぶりに見るなあ。悠里の男バージョン。あー、眼福。眼福」

 里穂さんは、知っていたんだ。
 悠里さんが女性だって。

 私よりもずっと前から。

 頭を鈍器で殴られたような衝撃を受け、目の前がぼやけて見える。

 彼は「俺の裏側を知って、離れていかない人は数少なくて」と言っていた。
 ゼロとは言っていない。

「史ちゃん? どうかした?」

 染谷さんに声をかけられ、ハッとする。

「いえ」

「疲れたのかな。帰ろうか」

「あ、はい」
< 174 / 390 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop