彼女は実は男で溺愛で
悩む頭を抱えながら、服を着る。
先にカウンセリングルームの方に行った里穂さんが、歓喜の声を上げた。
「ヤダ。珍しい。こっちの悠里に会えるなんて」
え、どういう意味。
焦る手は、上手く試着室のノブをつかめない。
なんとか捕まえたノブを引くと、そこには染谷さんがいた。
「染谷、さん」
「ああ、史ちゃん。ボディメイク、終わったんだね」
「え、あ、はい」
どうして。
里穂さんが、いるのに。
「久しぶりに見るなあ。悠里の男バージョン。あー、眼福。眼福」
里穂さんは、知っていたんだ。
悠里さんが女性だって。
私よりもずっと前から。
頭を鈍器で殴られたような衝撃を受け、目の前がぼやけて見える。
彼は「俺の裏側を知って、離れていかない人は数少なくて」と言っていた。
ゼロとは言っていない。
「史ちゃん? どうかした?」
染谷さんに声をかけられ、ハッとする。
「いえ」
「疲れたのかな。帰ろうか」
「あ、はい」