彼女は実は男で溺愛で

「あの、でも、腰が抜けてしまって」

「え」

 目を丸くした染谷さんはお腹を抱えるように「ハハハハッ」と豪快に笑う。
 私は情けないような気持ちで、ブスッとした顔をさせ、笑い終わるのを待った。

「ごめん。ずいぶんと大丈夫そうだったから。調子に乗っていたね」

「大丈夫なわけ、ないじゃないですか」

「うん。ごめん。嫌いになっていない?」

 大人の男性らしからぬ質問に、文句を言う。

「ずるいです。そんな風に聞くなんて」

「ハハ。うん。史ちゃんが可愛くて。自制しなければね」

 頭をかき回され「もう」と怒ると、彼は笑う。

 私が動けるようになるまで、たわいもない話をした。

 クローゼットには『悠里さん』の服も入っていて、最近はメンズスーツの方まで浸食しているだとか、私を和ませるような話題ばかり。
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