彼女は実は男で溺愛で
「蒼生」
女性の声がして、佐竹さんがピクリと反応した。
「更紗」
村岡さんが私たちに歩み寄ってきて、染谷さんに向かって深々と頭を下げた。
「いつもごめんなさい」
「いや、文句は佐竹に今度言うよ」
里穂さんほどじゃないけれど、村岡さんとも親しげに感じて胸の奥がチクリとする。
村岡さんは私にも「迷惑かけて、ごめんなさい」と、しおらしく謝った。
彼女のいつものイメージとはかけ離れていて、きっとそれだけ佐竹さんが大切なのだと伝わってきた。
佐竹さんは呑気なもので、酔っ払って村岡さんにしなだけかかっている。
大きな図体が、小さな体に寄りかかっている構図が笑いを誘う。
「更紗〜。結婚しようよ」
「そうね。少なくとも、酔っていない時に言ってほしいわ」
眉尻を下げぼやく村岡さんに、佐竹さんは驚いたように聞き返す。
「酔っていなければ、結婚するってこと?」
「とにかく帰りましょう」
村岡さんは私たちに会釈してから、佐竹さんを連れ帰った。