彼女は実は男で溺愛で

「蒼生」

 女性の声がして、佐竹さんがピクリと反応した。

「更紗」

 村岡さんが私たちに歩み寄ってきて、染谷さんに向かって深々と頭を下げた。

「いつもごめんなさい」

「いや、文句は佐竹に今度言うよ」

 里穂さんほどじゃないけれど、村岡さんとも親しげに感じて胸の奥がチクリとする。

 村岡さんは私にも「迷惑かけて、ごめんなさい」と、しおらしく謝った。
 彼女のいつものイメージとはかけ離れていて、きっとそれだけ佐竹さんが大切なのだと伝わってきた。

 佐竹さんは呑気なもので、酔っ払って村岡さんにしなだけかかっている。
 大きな図体が、小さな体に寄りかかっている構図が笑いを誘う。

「更紗〜。結婚しようよ」

「そうね。少なくとも、酔っていない時に言ってほしいわ」

 眉尻を下げぼやく村岡さんに、佐竹さんは驚いたように聞き返す。

「酔っていなければ、結婚するってこと?」

「とにかく帰りましょう」

 村岡さんは私たちに会釈してから、佐竹さんを連れ帰った。
< 222 / 390 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop