彼女は実は男で溺愛で

 アパートに着くと、靴も脱がずにキスをした。
 おでこを擦り合わせる彼が、囁くように言った。

「ただいま」

「おかえりなさい?」

「ふふ。史ちゃんもおかえり」

「ただいま」

 ソファまで歩く間もキスをして、彼はジャケットを脱ぎながらもキスをやめない。
 その仕草が色っぽくて、ドキドキする。

 ジャケットはダイニングの椅子にかけられ、ネクタイに指をかける彼が「ん?」と私の視線に質問した。

「あの、仕草ひとつひとつが色っぽくて」

「ハハ。史ちゃんにかかると、俺はすごくいい男だ」

「いい男ですよ。困るくらい」

 ふふっと笑う彼は腕時計も外し、テーブルに置いた。
 些細な仕草さえも男性的で、ドキドキと鼓動が煩わしい。

 彼を女性と信じていた頃が、遠い昔に思えてくるほどに。
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