彼女は実は男で溺愛で
会いたいなあ。悠里さんに。
私は悠里さんに、逃げているのかな。
私には家族はあっても、ないようなものだから。
懐かしい自分の部屋も、どこか違った顔を見せ、私を素直に受け入れない。
「2ヶ月かあ」
3月の初旬にこの家を出て2ヶ月。
長いような短いような期間に思いを馳せていると、夜更かした睡眠不足がたたり、いつの間にか眠っていた。
目が覚めると、夕方の4時10分過ぎ。
夕食の準備でも手伝おうかと、キッチンに足を向けると、2人の話し声が聞こえた。
「やっぱり無理よ」
「鈴さん」
鈴香が私の母の名前。
2人はお互いを亮太さん、鈴さんと呼び合っている。
「せっかく授かった命なんだ」
「でも、史乃になって言えば。史乃が産んでもおかしくない年頃なのに」
雷に打たれたようなショックを受け、静かに部屋へと戻った。
それから夕食に呼ばれても、なにを話したのか思い出せない。