彼女は実は男で溺愛で

 2人の会話を聞いてしまったときに、悠里さんとの艶かしい夜を思い出してしまった。
 昨日の自分たちの姿が、父と母に入れ替わり吐き気がする。

 ふわふわした恥ずかしくも愛おしかった時間が、穢らわしく惨めな思いに変わる。

「史ちゃん?」

「いやっ!」

 彼が私を覗き込もうとした行為から、より鮮明に昨日の情事が蘇りそうになる。

 ショックを受けている彼の目を見られずに、顔を覆ってすすり泣いた。

「史ちゃん。なにもしないから」

 そっと抱き留める彼の胸に、おずおずと顔を埋める。
 彼の腕の中は、いつもと変わらず温かい。

「ごめん。ごめんなさい」

 私は何度も泣きながら謝った。
< 256 / 390 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop