彼女は実は男で溺愛で

 私は膝を自分の方へ引き寄せ、顔を埋めて小さな声で言った。

「私も」

「え」

「あの夜を思い出してしまって」

「ごめん。軽々しく話していい内容ではなかったかな」

 彼は私がまだ両親を思い出すと、勘違いしたようだ。

「違うんです。私も悠里さんと、同じというか」

「え」

 膝を抱える私の背中に、彼が控えめに手を置いた。

「抱きしめても、いい?」

「ここでは、ちょっと恥ずかしいです」

「うん。そっか。うん」

 車に乗り込むと、隙を見て彼は唇を重ねた。

「悠里さん、外では、恥ずかしいです」

「うん。ごめん。浮かれているかも。ダメだ。運転、集中しよう」

 温泉に入る予定だったはずなのに、彼は「アパートに帰っていい?」と告げる。

 私は、小さく頷いた。
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