彼女は実は男で溺愛で

 気休めに拭いた体は雫を落とし、彼の髪から落ちた水滴にさえ、甘い声が漏れる。
 触れる指先は、いつにも増して熱い。

「怖くはない?」

 何度も確認される彼の言葉に、かろうじて返事をする。

 翻弄される私は、甘く甘く彼に溶かされていく。

「史乃」

 初めて呼ばれる呼び方に、胸が高鳴って熱くなる。

 彼はゆっくりと私の中に押し入り、短い息を漏らす。
 彼しか触れることのできない奥底が、彼を求め疼いて仕方がない。

「悠里、さん」

 泣きそうな声が出て、彼を困らせる。
 困らせたいわけじゃないのに。

 そう思っても、彼の困ったような切ないような顔が、私にキスを落とす。

 ゆっくりと揺さぶられる欲情が、激しくぶつかり合うことはなく、もどかしいほどに私を愛す。

 私だけ何度も恥ずかしい声を上げ、彼にしがみつく。
 そして、今までと同じように彼の変化を感じないまま、彼は私から体を離してしまった。
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