彼女は実は男で溺愛で

「そうでもないでしょう。不甲斐ない面を、史ちゃんにはたくさん見せていると思うよ」

「それは、そういう面を知れて、ますます愛おしく思うから、いいんです」

「そう。ありがとう」

 少しはにかんで言う彼が、本当に愛おしい。
 そして彼は続けて言った。

「俺だって同じだよ。どうせなら、史ちゃんは料理が下手であってほしかったね」

「どうしてですか」

「そしたら、俺が全部世話できるでしょう」

 彼の願望を聞いて絶句する。

「料理、もっと上手くなってみせます」

「ハハ。楽しみだなあ」

 サラダを食べながら、彼は私に質問する。

「ね、両親の悩みはよかったの? ごめんね。俺が不甲斐ないせいで、有耶無耶になってしまったよね」

「悠里さんのせいでは、ううん。悠里さんのせいです」

「そうだよね。ごめん」

 謝る悠里さんに、私は重ねて言う。

「こんなに夢中にさせて、悠里さん以外考えられないんです」

 肩を竦めると「ハハ。可愛い理由」と彼は笑う。
< 328 / 390 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop