彼女は実は男で溺愛で

「悠里さんがそうなれば、って言ったんですよ」

「うん。それでも可愛い」

 彼は目尻を下げて、私を見つめる。

 その眼差しに僅かに熱っぽさを感じて、慌てて目を逸らす。

「ご飯、食べられなくなっちゃいます」

「早く食べ終えて、イチャイチャしたいな。ごめんね、猿で」

 頭の中で龍臣さんの言った「盛りのついた猿」という意味に変換される。

「猿は、困ります」

「困る?」

「だって」

 悩ましげな表情を向けられ、慌てて話題を変える。

「あ、あの。ずっと不思議で。どうして私なんですか」

「ん?」

「悠里さんの、好きな人」

 自分で問いかける恥ずかしさから、顔を俯かせると、彼は「うーん」と唸るような声を出した。

「聞かれたら、悩むような理由なんですか? ショックです」

「いや、うん。話すのは、少し恥ずかしくて」

 しばらく考えたような悠里さんが、口を開いた。
 それは思っていた始まりとは、違うものだった。
< 329 / 390 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop