彼女は実は男で溺愛で
「悠里さんがそうなれば、って言ったんですよ」
「うん。それでも可愛い」
彼は目尻を下げて、私を見つめる。
その眼差しに僅かに熱っぽさを感じて、慌てて目を逸らす。
「ご飯、食べられなくなっちゃいます」
「早く食べ終えて、イチャイチャしたいな。ごめんね、猿で」
頭の中で龍臣さんの言った「盛りのついた猿」という意味に変換される。
「猿は、困ります」
「困る?」
「だって」
悩ましげな表情を向けられ、慌てて話題を変える。
「あ、あの。ずっと不思議で。どうして私なんですか」
「ん?」
「悠里さんの、好きな人」
自分で問いかける恥ずかしさから、顔を俯かせると、彼は「うーん」と唸るような声を出した。
「聞かれたら、悩むような理由なんですか? ショックです」
「いや、うん。話すのは、少し恥ずかしくて」
しばらく考えたような悠里さんが、口を開いた。
それは思っていた始まりとは、違うものだった。