彼女は実は男で溺愛で
「史ちゃん、俺と暮らさない?」
「え」
かじっていたパンを落としそうになり、彼の顔を見つめる。
「史ちゃんの両親に、同棲させてほしいと挨拶に行けば、お母さんも安心するんじゃないかな。自分が気に入ってもらえるって、自惚れている?」
お母さんを安心させるため。
私はなんて強欲なんだろう。
この理由を聞いて、傷つくなんて。
彼の出生を知り、彼の前から去ろうとしていたくせに。
彼は尚も続けた。
「結婚を前提に同棲しよう。そうすれば、史ちゃんも俺の人となりが分かるでしょう? 結婚してしまえば、自分の妻になにを買い与えても文句は言われないよね」
飛躍した構想に、私は目を白黒させて咳き込む。
「ああ、ごめん。プロポーズが先だった?」
彼が飄々として言うものだから、私はムスッとして答えた。
「寝言は寝て言ってください。仕事に遅れます」
「ハハ。いつもの史ちゃんに戻っている」
目尻を下げ、嬉しそうに言う悠里さんに敵う気がしない。
「考えておいて。俺は本気だよ」
鼻歌を歌い出す彼は、機嫌がいいみたいだ。
私は現実味がなくて、目眩がしていた。