彼女は実は男で溺愛で

 制服は新入社員に1着支給された。

 追加注文は別料金だよね。
 痛い出費だなあ。

 財布よりも胸と胃にキリキリとした痛みを感じながら、切り刻まれた制服を鞄にしまった。

「また明日でもいいかしら」と交わした悠里さんとの約束。
 悠里さんに会えば気持ちが晴れるかもしれないと、フィッティングルームへ向かう。

「お疲れ様です」

 振り返った悠里さんが一瞬動きを止め、それからいつも通りの穏やかな笑みを浮かべた。

「お疲れ様」

 服を何着か手にする悠里さんが、静かに言った。

「なにか、あった?」

「いえ、なにも」

 やっぱり泣きはらした目は、バレちゃうのかな。
 メイク直しもしたし、腫れは引いたはずなのに。

「そう。つらいことがあったら言ってね。私にできることがあれば協力する」

 優しい言葉に胸が詰まる。

「はい。ありがとうございま」

 途中まで言ったお礼の言葉は、続けられなかった。
 抱き寄せられ、背中をトントンと優しくたたかれる。

 女性らしいエレガントな香りが、私の涙に濡れる。

 私が泣き止むまで、悠里さんは寄り添っていてくれた。
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