彼女は実は男で溺愛で

「ズルイです」

「まあまあ。で、これからは私服で仕事するの?」

「いえ。あの、それが」

 口籠っていると、染谷さんは驚く報告をする。

「俺だけ市村さんを知っていてズルイお詫びに、注文しておいたから。制服」

「えっ。どう、して」

 なにかあって制服を着ていないのは、あんなに泣いたのだからバレバレだったのかもしれない。
 それにしたって。

 私の問いかけに、染谷さんは言う。

「頑張っているみたいだから。仕事」

 仕事を真面目にやる要員。
 制服はそのバロメーターと思っていた自分が、何故だか懐かしい。

 同じイメージを持っているかもしれない発言も、彼から聞くと嬉しかった。

「はい。精一杯頑張ります!」

 やっと、自分がなりたかった社会人になれた気がした。
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