クローバー~約束~
約束のネックレス
和希と美穂は、練馬駅前のチェーン居酒屋に入ると、飲み物をオーダーした。

「僕は、生中を」

「私はレモンサワーをお願いします」

美穂は、今の素直な気持ちを言った。

「びっくりしちゃった。まさかカズキくんの気持ちを聞けるとは思わなかったから」

「ホントはさ、海をバックにカッコよくキメるつもりだったんだけど・・・おもいがけないことがあったもんだから」

店長とのことを「過去」だと言ってくれて、ホッとしていた。美穂の方も拓也のことは過去になってきている。

「何食べる?揚げ出し豆腐と・・・生もの平気?刺身7点盛り合わせとか」

「大丈夫。あと、ナンコツから揚げといももち、食べたいな」

店員を呼んでオーダーする。

楽しい時間はあっという間だった。・・・と言うのも、美穂の門限が12時だったからだ。それを言ったら、和希が

「12時のシンデレラだね」

とからかった。

「今日は、遅いから送っていくよ」

「ありがとう」

大江戸線に乗って、東中野に着いた。時刻は11時35分。少し時間がある。

「ここから5分くらい。ちょっと中央線の線路沿いをお散歩しない?」

美穂が提案した。

「ここ、このあいだまで、菜の花と桜がきれいだったのよ。結構、たくさんの人が写真撮りに来てたの」

「へぇ~、見たかったな」

「来年、一緒に見ようね。約束!」

あ、と和希が思い出したように声をあげる。

「約束、で思い出した。これ。開けてみて」

小さなリボンのかかった箱を差し出す。

美穂が開けてみると、キレイな緑のベネチアンガラスのクローバーをトップにしたビーズのネックレス。一緒に入っていたカードに、「作品名:  約束  コメント:  大切な人のことを考えながらデザイン、製作しました。  評価: AAA 」とある。

「すごい・・・AAAって最高評価?」

「初めてのカジュアルアクセサリーのデザイン&製作の課題でこれだったから自分でも驚いたよ。ちょうど君とメール交換し始めたころ、デザインを始めたんだ。君のことを想いながら。受け取ってくれる?」


「うん・・・」

「来年も、再来年も、10年後も、20年後も、ずっと一緒にいよう」

和希は、そう言うと美穂の首にそのネックレスを付ける。

「ずっとつけてるね」

美穂は微笑む。2人は見つめあって・・・和希の顔が近付いて来る。2人、2回目のKiss。1回目よりも、慈しむような長くて優しいKissだった。

「そろそろ行かないと、かも。来年の菜の花と桜はカズキくんと見れるね」

美穂は微笑んだ。

「急ごう」

11時55分に美穂の家の前に着いた。美穂の父が心配げに、玄関前で待っていた。

「パパ、ただいま」

つとめて明るく、美穂は言った。

「美穂さんとおつきあいさせていただいている飯島和希と言います」

「フン。美穂、遅いぞ。入るぞ」

「じゃあね、カズキくん、ごめんね、また。」

(僕は嫌われているのだろうか?でも、何故?)

納得できないまま、和希は早足で駅へ向かった。
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