クローバー~約束~
突然の招待状
家に帰ってから、美穂はリビングで父と向き合っていた。

「パパ、カズキくんにあの態度はないんじゃないの?」

せっかく挨拶してくれた和希に対して、あまりにも失礼だった。

「平日に、こんな時間まで連れまわす男はろくなもんじゃない」

「拓也とだって、遅くなったときがあったじゃない」

「で、結果がこれか」

目の前のローテーブルにポン、と封筒を投げる。結婚式の招待状。拓也からだ。いったい、どういう気だろう?

「拓也くんにもてあそばれて、それでも懲りないお前はある意味タフだな」

吐き捨てるように、父が言う。

タフ・・・そんな言葉を使ってほしくない。あの、つらい悲しみの日々があったから、和希と始まっていいのか悩んだ。惹かれながらも、いいのかなっていう想いがあったのに。

「拓也とカズキくんは違う。拓也みたいなうらぎりはカズキくんはしない」

「どうだかな」

和希の笑顔と優しいkissが脳裏に浮かんだ。始まったばかりだけど、和希の優しさは真実だ。

「来年も再来年も、10年後も20年後も、ずっと一緒にいよう」

和希の言葉がリフレインする。

「とにかく、俺はもう寝る。お前も早く寝ろ」

父がリビングを去っていくと、残されたのは結婚式の招待状だけだった。

開封してみると、式は10月だった。都内の有名ホテルのレストランの披露宴への招待状。1枚の便箋が同封されていた。

「美穂へ

君は元気でいるだろうか。あの日、君を深く傷つけてしまったこと、申し訳なく思っているよ。君のことは本当に愛していたから、彼女を愛し始めていると気付いたとき、戸惑った。でも・・・もう引き返せなかったんだ。

あんな別れ方をした君が、披露宴に来てくれるとは考えづらい。でももし・・・もう新しい出会いをしているのであれば、彼と一緒に出席してくれないだろうか。よい返事をまってるよ    拓也」


はぁ・・・と美穂はため息をついた。頬に、冷たいものを感じて動揺する。私、泣いてる?忘れた、と思っていた想いがあふれ出ているのかもしれない。和希の声が聞きたい。そう切実に思った。


「カズキくん」と書かれた画面を見ながら、恋しい想いがつのってくるのに気づいた。コールする。

3回目のコール音で和希が出た。

「はい。どうした、美穂?」

「・・・・・」

「美穂?・・・泣いてるの?」

「・・・ごめん」

「あやまることないよ。お父さんに何か言われた?帰るの遅すぎたかな?」

「違うの・・・」

「だったら、どうしたの?」

「カズキくん、私たち、来年も再来年も、10年後も20年後も、ずっと一緒、よね?」

「クローバーのネックレスに誓うよ。永遠に、ずっと離れない。何があっても」

クローバーのネックレスに触れてみる。このネックレスにこめられた和希の想い。

「私も、何があっても離れない。クローバーのネックレスに誓って」

「うん・・・。あ~。美穂にキスしたくなって来た」

思い出す。今日した、和希との2回のkiss。自然に顔がにやけてしまう。

「うふふ。日曜までおあずけ、ね?」

「やっと笑った。・・・よかった。日曜はゼッタイ、キスするぞ!いっぱい、するぞぉ~!」

「あはは、カズキくん、気合い入れ過ぎ!遅い時間にごめんね。おやすみなさい」

「美穂に元気が戻ってよかった。おやすみ」

和希は拓也とは違う。必ず2人で幸せになれる。そんなあたたかな想いで、美穂は眠りについた。
< 16 / 25 >

この作品をシェア

pagetop