クローバー~約束~
メル友は・・・まさかの学生さん?
「K-Siena○○@docomo.ne.jp」と書かれた淡いブルーの付箋をじっと見つめて、1時間になる。恵美は、このメルアドだけで、名前も年齢も職業も教えてくれなかった。「そういうのは、知り合ってから教えあえばいいよ~♪」って、恵美、あなた、どこまで楽観的なの~?まぁ、恵美の知り合いの、知り合いってことだから、変な人ではないだろうけど。でも、こういうのって、ハンドルネームでやり取りするものなのかしら?まぁ、どうせ、1日中、家にいるんだし、とりあえず、打ってみようかな。とはいっても、今は朝の10時、まともな仕事をしている人なら、返事はできないだろう。

【To: K-Siena○○@docomo.ne.jp】

【Subject: 初めまして】

【初めまして。崎田 恵美さんの知り合いで、あなたのメルアドをもらった者です。え~とっ、自己紹介とか始めたらいいのかな?よく分からなくてメールしてます(#^^#)お返事待ってます。】

これだけの文を考えるのに、20分もかけてしまう私って、文才なし?よね。作文とか、ほめられたこと一度もないもの。う~む、前途多難。・・・って言うか、返事来るのかしら?・・・って思っていたら、5分ほどでメール着信音。


【To: izurin○○@softbank.ne.jp】

【Re:初めまして】

【初めまして、だけど、ごめんっ、今、講義の休み中で時間がないんだ。自己紹介は、夜にしよう。カズキ】

えっ、えっ、え~っとっ。学生さんだったの?あたし、27、もうすぐ8なんですけど。こんな年上女とメールして、友達になって楽しいのかな。まぁ、年下は恋愛対象外だから、私にとっては都合がいいか。とりあえず、名前が分かった。カズキくんね。どういう字書くんだろ?和樹、一樹、和希、一輝・・・考えつくだけで色々あるよね。カズキくん。どんな子だろ?大学生かな?

問題は、私の年齢が分かっているかどうかよね。分かった時点でシャットダウン、っていう可能性も。考えたくないけどね(笑)

変だな、あたし、なんだかワクワクしてきた。年下キラーってわけじゃないよ。さっきも言ったけど、年下は、「恋愛対象外」。これは絶対。でも・・・私、異性の友達っていないから、いい友達になれればいいな、と思う。

カズキくんが言う、夜って、何時ごろだろう。学生さんだから、バイトとかもしてるのかな。気がつけばあたし、カズキくんのことばかり考えていて。違う!これは恋じゃないよ。興味津々、なだけ。

そうこうしているうちに、夕食の時間になった。「美穂~、ご飯よ~!」ママの声。「は~い!」
「よかった・・・少しは、元気、出てきたのね。会社、行く気になった?」
「ううん、有休消化して、辞める。いい機会だったわ。セクハラおやじのいる、嫌な職場だったし」
そうなの。みんな、黙って我慢していたのよ。私は、ママを安心させるように言う」
「就活は、すぐするから。大丈夫、簿記1級があるから、すぐ見つかるわ」
「そうかしらねぇ」ママは心配そうだ。
「大丈夫だって!今日の夕食なあに?ラッキー!鶏肉のトマトチーズ焼きね。パパは今日も遅いの?」
「そうだって。毎日、接待、接待、営業は大変よね」
両親は職場結婚で、仕事の大変さは分かっているらしい。
「ごちそうさま~、おいしかった。明日は、あたしが作るね」
「ホントに元気になったね、美穂。ママ、心配だった・・・」
「心配かけて、ごめん。いつまでも、泣いてはいられないよね」
ホントは、乗り越えてなんていない・・・いないけど、いつまでも両親に心配をかけるわけにはいかない。まっ、仕事を辞めるのは、心配かけてるけどね(笑)

部屋に戻ると、メール着信アリ、のランプが点滅していた。意外と早かったのね。勝手に、9時過ぎだと思ってた。
思った通り、カズキくんからのメール。

【Re:初めまして】

【初めまして・・・じゃないね、カズキです。昼間はごめん。簡単に自己紹介するね。僕のことはカズキ、って呼んでくれればいいよ。メアドからして、イズミちゃんかな?何て呼べばいい?簡単に自己紹介すると、僕はジュエリーデザイナーの卵。孵化できるかどうかは分からないけど(笑)と言っても、総務の仕事をして、専門学校に入ったから、今、28歳。趣味は絵と写真かな。出身は福岡で、今、練馬で一人暮らししています。いずりんちゃんのこともおしえてくれるかな。】

いずりんちゃん・・・私の名字和泉(いずみ)から取った、ニックネーム。付き合い始めのころ、拓也に呼ばれていた痛みを伴う懐かしい呼び名・・・。

しばらく、私は呆然とそのメール画面を眺め続けていた。
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