雨の滴と恋の雫とエトセトラ
 千佳が紹介したいと言っていた店は、知る人ぞ知るような、駅から少し離れた、入り組んだ雑居ビルの中に紛れていた。

 乗り換え路線が沢山集まる主要の駅の周辺では街の中心となって賑わいがあるが、その店は狭い路地を通って駅の裏側に出るために、知らないと中々足を踏み入れないようなところにあった。

 コーヒーショップ「(つや)」と書かれた小さなつい立の看板が通りに出ていなければ、そこがお店とわからないくらい見逃してしまいそう。

 見かけも古ぼけた民家を改造したような作りで、周りのごちゃごちゃしたビルや建物に押されて埋もれてしまいそうだった。

 千佳が連れて来てくれなければ、絶対自ら入ろうと思わない。

 でも千佳は自信たっぷりに笑みを浮かべて、ドアを開けた。

 軽やかなカランコロンというベルがなって、すぐさまコーヒーの香りが鼻をつついた。

 中はカウンターと、テーブル席が三つあり、素朴に木の素材をそのまま生かした風貌がログハウス調でおちついた親しみやすさが出ていた。

 お客が誰も居ないので流行ってなさそうだが、却ってそれが秘密の場所に感じられて私はすぐに気に入ってしまった。

「おっ、千佳ちゃん。いらっしゃい。友達連れて来てくれたんだ」

 カウンターの中にはひょろっとした男性がエプロン姿で手を動かしながら、にこりと笑って歓迎してくれた。

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