瞳に印を、首筋に口づけを―孤高な国王陛下による断ち難き愛染―
「大丈夫?」

「ゾフィ様……マグダレーネ様。申し訳ありません」

 苦々しくレオンが謝罪の言葉を口にし、レーネは精一杯首を横に振った。

「私の方こそ、あなたを巻き込んでしまって……」

 語尾が弱々しくなったのもあるが、最後まで言葉にならなかったのは、背後から現れた人物がレーネを無理矢理立たせたからだ。

「これで文句はないな?」

 それはレーネにか、ゾフィにか、はたまたレオンに対して投げられたのかは定かではない。

 暗い青の混じった瞳が面々を見下ろす。ゾフィは縋る眼差しを国王に向け、よろよろと立ち上がった。レーネは振り向かずに一度目を閉じてからゾフィを見遣る。

「ゾフィ……いえ女王陛下。後のことを、この国をお願いします」

「待って、レーネ! あなたがいないと私は、この国は……っ」

 ぐっと続きを飲み込むゾフィにレーネはなだめるように微笑んだ。ゾフィの肩に手いて、静かに言い聞かせる。

「大丈夫。あなたは昔からとても賢くて女王の素質を持っている。民もこの城に仕える者も、みんなあなたを慕っているわ」

 次にレーネはレオンを見た。

「レオン。女王陛下を頼みます」

 侍女としてではなくゾフィの姉として彼に託す。己の不甲斐なさに唇を噛みしめ、レオンは静かに頭を下げた。

「そう悲壮感を漂わせなくてもいいだろ。人質や罪人として迎えるわけでもない」

 いつもの調子でクラウスが口を挟み、レーネはゾフィたちに背を向けた。

 その場にいるノイトラーレス公国の人間もアルント王国側も戸惑いが隠せない。今日、ここで起こった出来事は両国それぞれのためにも他言無用となった。
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