瞳に印を、首筋に口づけを―孤高な国王陛下による断ち難き愛染―
 クラウスもレオンも互いから目を逸らさず息を潜める。剣を向け合う者にしかわからない間合いがそこにはあった。

 しばしの静寂の後、呼吸のタイミングに合わせ先に動いたのはレオンだった。

 激しく剣と剣がぶつかる音がする、と思ったのは一瞬でクラウスはすんでのところで軽やかに刃をかわす。レオンの剣は空気を切った。すぐに次の一振りが放たれるが結果は同じだ。

「かわすばかりでは決着はつきませんよ」

 あまりにも優雅な身のこなしにレオンが吐き捨てる。クラウスは余裕めいた笑みを浮かべ、剣を向けるどころか受けることさえしない。

 しかし不意にレオンが勢いよく剣を振りかざした瞬間、彼の鉄紺の瞳が鋭いものに変わる。

 クラウスは自身の剣を素早くレオンに突き出した。切っ先はレオンの左顔前ギリギリを掠め、直接は彼に当たらない。

 たまらなくなりゾフィは手のひらで顔を覆い、ルディガーは眉をひそめ一歩踏み込もうとする。レーネは瞬きひとつせず、顔を歪ませた。

 このあと、間合いに入ったクラウスに不利な展開になると思われたが、刃が当たっていないにも関わらずレオンの体勢が微妙に崩れた。

 レオン自身も驚きを隠せないでいると、その隙に懐に飛び込んだクラウスが今度こそ剣先をレオンの喉に当てる。

 どちらかが動けば薄い皮膚から血が流れるのは明確だった。水を打ったかのように場内は静まり返り、ややあってレオンは顔をしかめ、悔しさを滲ませた表情で降参の意を表した。

 クラウスが剣をしまったのと同時に、レオンはその場に座り込み、顔の左側を手で覆う。そこへゾフィが駆け寄った。

「レオン!」

 ゾフィは膝を折り、彼の頬に触れて無骨な剣士の顔を覗き込む。遅れてレーネもしゃがみこみ、彼に尋ねた。
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