瞳に印を、首筋に口づけを―孤高な国王陛下による断ち難き愛染―
 クラウスは特になにも言わずに国王の後に続く。

 自分たちの足音が響いては耳に残り、細やかな装飾の施された手持ちの洋灯だけが、この場に不似合いで違和感を拭えない。足元の輪郭がぼやけそうだ。

 石畳が剥き出しで、城の内部だとは思えないほど無機質な部屋には、ひんやりとした空気が淀んでいる。

 そして階段を下りてすぐに明かりが灯っていることに気づいた。

 先に誰かがいるのか。よりにもよってこんな牢獄のような場所に。疑問を口にする前に国王がある部屋の前で立ち止まり、重々しく錠を開けた。

 蝋燭の明かりがふっと揺れ、クラウスは中にいた人物に目を見張る。

 十歳前後の少女がふたり。ひとりは金色の長く柔らかい髪が床につくのも気にせず、怯えて座り込んでいる。

 対するもうひとりの少女は、闇に溶けるほどの艶やかな黒髪を持ち、来訪者たちを警戒して金髪の少女を守るべくして立ちはだかった。

 彼女は鋭い金色の双眸(そうぼう)で、国王とクラウスを()めつけた。クラウスは思わず息を呑む。

 続けてうつむいていた金髪の少女もこわごわと顔を上げ、男たちに視線を向けた。その瞳の色は左右で異なっていた。右目はヘーゼルブラウン、左目はもうひとりの少女と同じく黄金色だ。

 クラウスが目を見開いたまま少女たちに視線を向けていると、国王は背後からクラウスの肩に手を置き、そっと耳元で囁いた。

「心配しなくていい。彼女は……“本物”だ」

 その言葉にクラウスは首を動かし、不信感を宿した眼差しを王に向けた。国王はクラウスからわずかに距離を取り、怪しく笑う。

「片眼異色の者は何人もいるが、その中で初代フューリエンの力を継ぐ者はただひとり。彼女こそが本物だ」

「……根拠はあるのですか?」

 冷静な声色で水を向けられた国王は満足気に口角を上げる。
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