瞳に印を、首筋に口づけを―孤高な国王陛下による断ち難き愛染―
「彼女はこの年にして数々の予言を的中させ、すでに多くの者に慕われている。ゆくゆくは国を興し、その頂点に立つだろう。彼女自身か、それとも他の者か。まさに初代王のように」

 国民の誰もが知るアルント王国の成立にまつわる伝承。長い国の歴史を語る中で欠かせない存在がいる。

 初代王に多くの助言を与え、王国の発展に大きく寄与した女性、人々は彼女を〝偉大なる指導者〟の意として『フューリエン』と呼んだ。

 彼女は人智を超えた力を持って、未来を予言し的中させ、人の心を読み、根治不可能とされていた病や怪我をも癒す。そばにいるだけで幸運や富、成功をもたらす存在として語り継がれている。

 初代王が王国を築き上げたのは、彼自身の優秀さはもちろんだが、フューリエンの力も大きいとされている。その証拠に、初代王は片時も彼女を離さなかった。ところが彼女はある日突然、王の前から姿を消したのだという。

 どこまでが真実でどこまでが伝説か、どちらにせよ初代王とフューリエンのふたりの人物を表すため、王家の紋章は双頭の金色の(わし)になったと伝えられている。

 そして、ここからは王家に深い関わりなどがある一部の者しか知らないが、フューリエンに関しては続きがある。

 彼女が特異な人物として語られる理由は、特徴的な外見にもあった。彼女の瞳は左右で色が違っていたのだ。片方の目が、輝く満月を思わせる琥珀色だったらしい。

 鷲のごとく聡明で鋭い金の瞳だ、と初代王は称えた。

 おかげでこの内容を知る一部の人間は、片眼異色の女性を初代フューリエンの生まれ変わりや末裔だと信じ、不思議な力で幸福をもたらす存在として崇め奉ったりする。

 しかしそのほとんどは意味のないものだ。彼女たちに特別な力などない。
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