瞳に印を、首筋に口づけを―孤高な国王陛下による断ち難き愛染―
「数日後に城で迎冬会(げいとうかい)が開催される。当日は外部の人間の出入りも激しい。そのタイミングで逃してやろう」

 迎冬会は四季の変化が豊かなアルント王国で、冬の到来が間近になった頃に城で開催される舞踏会だ。上流階級の貴族たちはもちろん、王家に関係する者など多くの人たちが参加する。

 冬の間はどうしても皆、外に出るのに二の足を踏みがちだ。そうなる前のこの機会に情報交換や近況報告などを兼ね、それぞれの野心を達成する場にもなっている。もちろん純粋に出会いを期待する者たちも少なくはない。

 今も準備のため多くの人間が城に出入りしている。彼女たちを捕え、ここに連れてきたのもその隙を突いてだろう。なら逆に利用するまでだ。

 クラウスの言葉が効いたのか、金髪の少女の表情がわずかに揺らいだ。結びきっていた彼女の唇が静かにほどかれる。

「でも、私たちを逃がしたら、あなたが……」

 紡がれたのは外見に相応しく鈴を転がすような美しい声だ。

「心配しなくていい。国王はフューリエンの力を未知数に捉えている。本物のフューリエンなら、ここから脱出するのも難しくなかったと結論づけるだろう。その後は好きにしろ」

 飾らない物言いか、彼の雰囲気がそうさせるのか、クラウスの言葉を素直に受け取った少女の顔には、わずかに安堵の色が浮かんだ。

「ありがとう、ございます。私はゾフィ。こっちは……」

 そのときほとんど動かずにいた黒髪の少女がゾフィの腕を取った。まるで告げるなと言わんばかりの迫力で彼女を制する。圧倒されたゾフィは目線を肩に落とした。

 たしかに喋りすぎて自分たちの情報を与えるのはよくない。一瞬の沈黙が流れた後、クラウスが口火を切る。
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