瞳に印を、首筋に口づけを―孤高な国王陛下による断ち難き愛染―
 レーネの姿を確認したタリアは、途端に安堵の色を浮かべた。続けてレーネの立場を改めて諭し、ひとりにならないよう硬い口調で告げる。

 侍女としてというよりは本気でレーネの心配をしているのが伝わり、レーネは素直に謝罪した。

「ごめんなさい」

「謝らないでくださいね。マグダレーネさまになにかあったら陛下も悲しみます。おふたりの結婚について好き勝手言う者もおりますが、陛下はマグダレーネさまを愛していらっしゃいますよ」

 それは国王の妻となるレーネの侍女としてのタリアの気遣いと優しさだ。おそらくきっと誰が相手でもタリアは同じように告げて慰めたのだろう。

 レーネとしては素直に受け取れないが、あえて反論するほどでもない。それにタリアの発言はレーネの希望を伝えるのにいい流れだ。

 レーネはこのタイミングでタリアに王の執務室に行きたい旨を伝えた。意外な要望にタリアは目を見張る。

「陛下になにか御用ですか? 言伝(ことづて)でしたら……」

「いいえ。そういうわけではないんです。ただ妻にもかかわらず、陛下の普段の過ごされている部屋を知らないのもどうかと思いまして」

 さらっと仮面をかぶりレーネは貞淑(ていしゅく)な妻として答える。その回答はタリアの気に召したらしい。

 様子を見て中に入るのが難しいようなら機会を改めると約束し、タリアはレーネを王の執務室へと案内した。

 執務室の場所は知っていたが、自室はともかくここにはまだ足を踏み入れたことがない。しかし探し物の隠し場所としては有力候補だ。

 タリアは自分のような者が王の執務室に立ち入るなど恐れ多いと、少し離れた場所で待機しレーネを見守る。レーネは紋章の刻まれた大きな扉に、足音を立てず息を潜めて近づいた。

 できれば誰もいない方がいい。仮に王がいたとしても隙を見て、探し物の隠し場所など粗方の見当をつけたい。

 様々な思惑を抱き、扉をノックしようとしたときだった。中に人の気配、さらに声を感じ取り動きを止める。そして全神経を集中させる。
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