瞳に印を、首筋に口づけを―孤高な国王陛下による断ち難き愛染―
 その間に腰に腕を回され、ますます逃げられない。かぶっていたフードはうしろにずらされレーネの茶色い髪と共に顔も薄明りの元、晒された。

 それを気にする余裕もなく呼吸困難を起こしそうなほどの長い口づけに頭がくらくらしてくる。

 案の定、先に根負けしたのはレーネの方で、ゲオルクの肩を押して訴えると、静かに解放された。

 脈拍も息もなにもかもが不規則で整わない。体のあちこちが不協和音を奏でて訴える。心臓が壊れそうだ。

「どうしてここに来た?」

 対するゲオルクは息ひとつ乱さずレーネに尋ねた。だが、答えを待たずしてゲオルクは自嘲的な笑みを浮かべる。

「俺が他の女と過ごしているか、わざわざ確認しにきたのか?」

「ち、違う。たまたま通りかかって……」

 苦しい言い訳だ。主であるゲオルクの部屋は城の構造上、最奥にある。偶然通りかかることはまずない。

「なにが狙いだ?」

 じりじりと追い詰められていく感覚に心臓が早鐘を打ち出し、冷たい声とは裏腹に触れられた箇所は熱を帯びていく。

 ゲオルクはレーネの左目を覆っている髪に手を伸ばしゆっくりと搔き上げた。

 ひんやりとした空気が肌に刺さるのと同時に両目でしっかりと彼を捉える。揺るがない表情のゲオルクを見ていると、レーネの中でギリギリまで(とど)まっていたものがついに溢れ出す。

 どうしてここに来たのかって? そんなの私が知りたい。ただ――

「……会いたかった。あなたに会いたかったの」

 嘘でも取り繕ったわけでもない。レーネの素直な気持ちだった。しかし口にしてすぐに後悔する。彼に伝えるべき内容ではない。
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