瞳に印を、首筋に口づけを―孤高な国王陛下による断ち難き愛染―
 思考を飛ばしているとすぐ前に気配を感じて顔を上げる。するといつのまにベッドから腰を上げたゲオルクがそばでレーネを見下ろしていた。

 暗闇を吸い込ませたかのような涅色の瞳が自分を捕え、レーネは息を呑む。

「俺のことはどうでもいい。それにしても珍しいな。お前が他人と親しくするのは」

 なにかを勘繰られているのか、彼の真意が読めない。おかげでレーネは返事に戸惑う。言葉を続けたのはゲオルクの方だった。

「お前は誰に対してもいつも壁を作っているだろう。なのに、今日は随分と気を許しているように思えた」

 素っ気ない口調だが、的確な見立てにレーネは驚きを通り越して苦笑する。その反応にゲオルクは眉をひそめた。

「肯定するのか?」

 レーネは静かに首を横に振る。

「いいえ。彼とはなんでもない。本当に会話が楽しかっただけ。ただゲオルクの洞察力に感心しているの。あなた、本当に人をよく見ているのね」

 ゲオルクは厳しい表情を崩さない。そしてさらに一歩踏み込みレーネとの距離を縮めてきた。

「そうだ。一年以上ずっとそばで見てきたんだ」

 気づけばあまりの近さにレーネも思わず身構える。しかしゲオルクは気に留めずレーネの頬に触れた。珍しく強引な触れ方で抵抗する間もなく鋭い眼差しに射貫かれる。

 部屋の暗さに反して彼の表情は怖いくらいによく見える。ややあって彼の形のいい唇が動いた。

「今さら他の男に持っていかれてたまるか」

 放たれた言葉の意味を理解する前に唇が重ねられ、レーネは反射的にすぐ離れた。ところが顔に添えられた手は力強く、再び口づけられる。
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