一億円の契約妻は冷徹御曹司の愛を知る

 長い指に顎を持ち上げられた。整った顔が至近距離に近づいて、胸が爆発しそうだ。深い茶色の瞳にまっすぐ覗き込まれて、金縛りにあったように動けない。

 少しだけ厚みのある唇が、近づいてくる。

 音も振動もない車内で、ゆっくりと唇が重なる――直前、ガタンと大きく揺れて車が停車した。

 雅臣が苛立たしそうに運転席に声をかける。

「おい、なにごとだ」

「申し訳ありません。人が飛び出してきて……」

「人?」

 いつのまにか車は自宅に着いていたらしく、フロントガラスの向こうには見慣れた二條家の門扉が見えている。その手前に、栗色のたっぷりとしたロングヘアの女性が立っていた。

「未希……」

 ぽつりとこぼれた雅臣の声が、やけに耳に残る。

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