一億円の契約妻は冷徹御曹司の愛を知る
「どうかされましたか。今、悲鳴が」
植え込みの向こうに焦った声が近づいたと思ったら、突然後頭部を掴まれて引き寄せられた。
声を上げる間もなく、広い胸に顔を押しつけられる。片腕で囲うように私を隠し、『雅臣様』は植え込みの方に声を張る。
「なんでもない。野良猫が飛びついてきただけだ」
そう言うと、彼はわずかに声を落とした。
「親父はどうしてる?」
「お帰りになられる美田園様のお見送りを」
「……そうか」
「そろそろお戻りください。陽が落ちるとさすがに冷えます」
いたわりの言葉を残し、使用人らしき男性の気配が遠ざかっていく。
こちらを覗き込むこともしなかった彼は、もしかすると『雅臣様』がここで女性といちゃついているのを知っていたのかもしれないと思った。
「ねえ、雅臣」