一億円の契約妻は冷徹御曹司の愛を知る
目をぱちくりする私に、伊都さんは「やっぱりね」と笑った。ソファから立ち上り、私を追い詰めるようにじりじりと近づいてくる。
「雅兄にはね、小さい頃からずーっと想い続けている人がいるんですって」
どくっと心臓が大きく跳ねた。皮肉っぽく口角を上げる雅臣の顔が脳裏をよぎる。
「でも……だって」
迫ってくる伊都さんから逃げるように後ずさりしながら、いつか車内で交わした契約の瞬間を思い出す。
『俺の妻になれ』
私をまっすぐに見て告げた雅臣は、付き合っている人も結婚したい人もいないと口にしていた。ひとりの女性に縛られたくないから、お飾りの妻として私を必要としているのだと思っていた、のに。
「どうせ世間の噂を真に受けて、遊び人の御曹司とでも思っていたんじゃない?」