一億円の契約妻は冷徹御曹司の愛を知る

 目をぱちくりする私に、伊都さんは「やっぱりね」と笑った。ソファから立ち上り、私を追い詰めるようにじりじりと近づいてくる。

「雅兄にはね、小さい頃からずーっと想い続けている人がいるんですって」

 どくっと心臓が大きく跳ねた。皮肉っぽく口角を上げる雅臣の顔が脳裏をよぎる。

「でも……だって」

 迫ってくる伊都さんから逃げるように後ずさりしながら、いつか車内で交わした契約の瞬間を思い出す。

『俺の妻になれ』

 私をまっすぐに見て告げた雅臣は、付き合っている人も結婚したい人もいないと口にしていた。ひとりの女性に縛られたくないから、お飾りの妻として私を必要としているのだと思っていた、のに。

「どうせ世間の噂を真に受けて、遊び人の御曹司とでも思っていたんじゃない?」

< 127 / 308 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop