一億円の契約妻は冷徹御曹司の愛を知る
雰囲気に気おされそうになって、ぎゅっとこぶしを握った。
ひるんでる場合じゃない。これはチャンスだ。
二條家の人間に話を聞いてもらえる機会なんて、この先きっともうない。
それくらい、この家は私にとって近くて遠い存在なのだ。
「……返してもらいにきたんです」
私の言葉に、目の前の彼は表情を変えなかった。
「なにを返してもらいたい。金か? 権利か?」
またか、と言うように、彼は少しつまらなさそうな顔になった。もしかして、こんなことは日常茶飯事なのだろうか。
乾き始めた唇をそっと舐めて、私はつぶやく。
「お金でも、権利でもありません。私が返してもらいたいのは、形見です」
「形見?」
「父が描いた絵画です」