一億円の契約妻は冷徹御曹司の愛を知る
半分閉じかかっていた切れ長の目が、ふたたび興味を引かれたようにこちらを向いた。しまりかけていた希望の扉が、わずかに口を開く。その隙間に強引に体をねじ込むように、私は言葉を続けた。
「二十年前、売れない画家だった父は、二條グループが所有する倉庫の一角をアトリエとして借りていました。でも家賃が払えなくて、代わりに絵を差し上げたんです」
体の横に下ろした手が震えそうになって、きつくこぶしをにぎる。
私は、その絵をどうしても手に入れなければならない。
考え込むようにじっと視線を注いでいた彼が、静かに言う。
「それなら、返せという言い方はおかしいだろ。正当な理由があってもらい受けたものだ」
「か、買い戻したいんです! お金なら、お支払いします」