一億円の契約妻は冷徹御曹司の愛を知る
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父のアトリエは、どこかの山奥に建つ工場に隣接した倉庫の一角にあった。
それがなんの工場で、なんの荷物を置いている倉庫だったのかはわからない。私が勤めていた物流センターよりもずっと規模の小さい、もしかすると使われてすらいない倉庫だったのかもしれない。
工場自体が山を切り開いて建てたような、森の真ん中の緑に囲まれた場所にあった。
薄れかかった五歳のころの記憶を手繰ると、私と母は週末ごとにお弁当をもって父のアトリエに遊びに出かけていた。といっても、父は絵を描きながら片手間におにぎりやサンドウィッチをほおばるだけで、一緒に食事をしたことはほとんどない。
たいていは母が絵を描く父をそっと眺めていて、私は子どもらしさ全開に落ち着きがなく、倉庫の周辺でひとり遊びをしていた。