一億円の契約妻は冷徹御曹司の愛を知る
…
「ここって……」
地下に続く階段を下りながらつぶやくと、前を行く伊都さんが振り返って声を弾ませた。
「スイーツが絶品なのよ!」
「いえ、スイーツというか」
かろうじて視界が利く程度まで落とされた照明に、洗練されたロゴ看板。スイーツ店というにはあまりにもスタイリッシュかつ怪しげな店内の通路を、伊都さんはためらうことなく進んでいく。
「個室もあるけど、べつに普通のとこでいいわよね」
開けたスペースにたどりついて、私は息を飲んだ。天井から豪華なクリスタルのシャンデリアが威風堂々とつり下がっている。
「あの……ここってパティスリーでもカフェでもないですよね」
七人が座れるカウンター席と四人がけのソファテーブルが四卓。店内はさほど広くないけれど、そのぶん一席ごとにダウンライトが優しく注いでいて、しっとりした落ち着いた空間になっている。