一億円の契約妻は冷徹御曹司の愛を知る
「さ、帰りましょ」
「え」
口をつけていた紅茶のカップを慌てて置いた。バッグを手にして扉に向かう伊都さんに続きながら、ふと振り返る。
ひとりで座っている栗色の髪の女性はお酒を注文したらしく、カウンターに頬杖をついてシェイカーを振る店員の姿をぼんやり眺めている。
脳裏をよぎるのは、車の前で仁王立ちをしていたうつくしい姿だ。ずっと頭の隅に引っかかっていた彼女が、今、そこにいる。
「伊都さん、すみません。先に帰っててもらえますか」
振り返る彼女を見上げて、私は不自然にならないように笑顔を繕った。
「まだ疲れが取れなくて……。せっかくなので、もう少しゆっくりしていきたいんです」
「まったく、しょうがないわね。じゃああとで迎えをよこすように坂城に言っておくわ」