一億円の契約妻は冷徹御曹司の愛を知る
つんとした態度のまま気遣うようなセリフを口にする彼女に、少し笑ってしまう。伊都さんも雅臣と同じだ。本当はやさしいのに、素直じゃない。
「大丈夫です。電車で戻りますから。ありがとう、伊都さん」
照れ隠しなのか「ふん」と鼻を鳴らし、彼女は扉をくぐってフロアを後にした。細い背中を見送ってから、私はふう、と深呼吸をする。両手を握り締めて、カウンター席へ進んだ。
「あの、連城……未希さん、ですか?」
正面を向いていた薄い色の瞳が、静かに私を見る。なんの感情も読み取れないような表情は、私を認めても変わらなかった。
「……どちら様?」
気だるげな口調でつぶやく。そのぽってりした唇は、雅臣と何回触れ合ったのだろう。そんなことを考えそうになり、急いで振り払った。
「私、瀬戸口――いえ、二條愛と申します」