一億円の契約妻は冷徹御曹司の愛を知る
「最悪だよな、あの男。人を脅して手に入れようなんてさ。ひどいことされてない? かわいそうに」
「ちがいます。そうじゃないんです」
どんなに訴えても、私の声は沢渡さんに届いていないようだった。いつもかけていた黒縁メガネの奥の目は、オレンジ色の照明を受けてぎらついている。
「でも、もう大丈夫。愛ちゃんのことは、俺が守ってあげるから」
どうしよう。
壁面には手を伸ばしても届きそうにない高さに窓があるけれど、その奥は真っ暗だ。今が何時なのかもわからなければ、ここがどこなのかもわからない。
幸いバッグは手に届く場所に転がっているけれど、肝心の携帯電話はさっき目の前で噴水に投げ込まれてしまった。
雅臣との電話の途中だったから、彼も不審に思ったかもしれない。でも、こんなふうに連れ去られてるなんて、普通は考えない。