一億円の契約妻は冷徹御曹司の愛を知る
「……帰ります」
壁に手をついて、ゆっくり立ち上がる。バッグを拾い上げ、沢渡さんから距離を取りながら、少しずつ彼の後方にあるドアを目指す。
「帰るって、どこに? キミのお母さん、死んじゃったんでしょ。帰る場所なんてないじゃないか」
倉庫の真ん中に立ち止まっている彼を睨みながら、じりじりと出入り口に近づいた。
「かわいそうな愛ちゃん。ひとりぼっちになっちゃったんだね」
沢渡さんはうっすら笑みを浮かべながら、憐れむように私を目で追っている。彼がつぶやいた言葉を、私は心のなかで繰り返した。
そう、私はひとりだ。だからちゃんと、自分の力であの人のところに帰らなければならない。
「生活に困ってるなら心配いらないよ。俺が面倒見てあげるから」
「要りません。私にはちゃんと、帰る場所がある」