一億円の契約妻は冷徹御曹司の愛を知る

 どうして体が動かないのだろう。

 どうして、こんな人に自由を奪われなければならないのだろう。

 雅臣のことをなにもわかっていない、この人に――。

 こみ上げるくやしさに、喉が痙攣しそうだった。

「たしかに、彼は私のことをなんとも思っていないかもしれない。ただ義務感で一緒にいるだけかもしれない」

 頭に浮かぶのは、いつかの病室の景色だった。母にきれいな花束を持ってきてくれた雅臣の、まっすぐな言葉。

『愛のことは、私が一生をかけて必ず幸せにします』

 涙が落ちそうで、唇を噛んだ。

 私はもう十分に涙を流した。あの人の胸にすがりついて。

 ははっとバカにしたように笑って、沢渡さんが埃で汚れたメガネを押し上げる。私を覗き込む目は、淀んだ沼みたいに真っ黒だ。

「ほら、だったらすぐにでも離れるべきだ」

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