一億円の契約妻は冷徹御曹司の愛を知る
焦ったように私を見る彼に、雅臣は呆れたように口にする。
「彼女のじゃない。表の車に置きっぱなしだろ? 社用携帯。律儀に持ち歩いてくれてて助かった」
「な……あんた、従業員の社用携帯にGPSなんて仕込んでるのか⁉」
「おまえのだけだ」
ひときわ冷えた声を放ち、雅臣はゆっくり沢渡さんに近づいていく。
「いつまた愛に近づくかわからなかったんでね、沢渡さん」
頬を引き攣らせている彼を静かに見下ろして、雅臣は凍り付きそうなほど冷たい声を出した。
「せっかく降格で済ませてやってたのに。こんな犯罪行為をやられたら、処分するしかないな」
遠くから、赤い回転灯を連想させるサイレンの音が近づいてくる。それに気づいた沢渡さんが、ポケットから何かを取り出した。オレンジの照明を受けてぎらりと光る切っ先に、思わず悲鳴が漏れる。