一億円の契約妻は冷徹御曹司の愛を知る

「出していいのに」

 間髪をいれずに答えた瞬間、また沈黙が流れた。

「えっ」と振り返る雅臣から、今度は私が目を逸らす。恥ずかしすぎて、顔から蒸気が噴出しそうだ。

「今、なんて言った」

「だから、手を出してもいいって、言ったんです」

 またしても無言の時間が流れて、心臓が悲鳴をあげる。

 もうダメ。居たたまれない。

 恥ずかしさに耐え切れず、雅臣の顔を見ないまま小さく叫んだ。

「も、もういいです! 聞かなかったことにしてください!」

 おやすみなさい、と早口で言ってその場を立ち去ろうとしたら、後ろから腕を掴まれた。

 振り返った瞬間、端正な顔と目が合ってしまう。

 雅臣は見たことのない表情を浮かべていた。

 眉を潜め、戸惑うような苦しそうな顔で私をまっすぐ見下ろしている。いつも強気で傲慢な態度をとってばかりの人間とは思えない、自信なさげな表情だ。
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