一億円の契約妻は冷徹御曹司の愛を知る
 そんなふうに考えていたのだと、雅臣は告げた。すべては自分の母親が生前寂しく過ごしていたことに起因しているのだと。

 雅臣の告白をベッドの中で聞きながら、私は彼の父親と後妻である清香さんのことを思い浮かべた。彼らの再婚が雅臣の中で大きなわだかまりになっているのだろうか。

『雅臣のお父さんは……なにをしたんですか?』

『なにもしなかった』

『え?』

『自分の伴侶が死の淵にいるのに、あいつは見舞いにも来なかった』

 雅臣のお母さんは、もともとそんなに体が丈夫じゃなかった。それでも跡継ぎを望まれているからと子どもをふたり儲けたけれど、雅臣を産んだあとは入退院を繰り返していたという。

『そんな母を、あいつは遠ざけた。都心の最新設備が整った大学病院から、地方の分院に転院させた』

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