一億円の契約妻は冷徹御曹司の愛を知る

***

 冷房が効いていた車内から外に出た途端、セミの声が耳を打った。都内よりも勢いのある大合唱に思わず苦笑いがこぼれる。

「こっちの方は多少、涼しいな」

 運転席から下りて車にロックをかけると、サングラス姿の雅臣は私につばの広い麦わら帽子を差し出した。

「ちゃんとかぶっとけ。少ない脳みそが蒸発するぞ」

「しません! ……かぶるけど」

「少ないってのは訂正しないんだな」

 苦笑する雅臣の背中をぽかぽか叩きながら、私たちは緑に飲み込まれそうになっている駐車場を出て石段を上りはじめた。

「そういえば、前に私のお母さんにも花束を用意してくれたでしょう。あの花、どうやって選んだの?」

 雅臣が抱えている白や黄やピンクの色鮮やかな花束を見ながら言うと、彼はサングラスを外して胸ポケットにしまいながらつぶやいた。

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