一億円の契約妻は冷徹御曹司の愛を知る
 雅臣はその根元に花束を置いて、ぽかんとしている私を横目で見た。

「ハナミズキだ。ここに母が眠ってる」

「え……?」

 樹木葬だとつぶやいて、彼は青空に向かって枝を広げるハナミズキを見上げる。

「母は、なによりも自然を愛していた」

 手を合わせるでも膝をつくでもなく、ただ流れる風の音を聞いているみたいに雅臣は目を瞑った。

 頭上に広がる青空を小鳥が舞い、あたりには緑の匂いが立ち込めている。

 雅臣と、彼のお兄さんである晴臣さんを産んでくれた、二條公親の前妻――依子(よりこ)さん。彼女はこの近くの病院で長らく療養していたのだという。

 じっと祈りをささげる雅臣のとなりで、私も同じようにまぶたを閉じた。

 重奏のように響いていたセミの声に、さわさわと柔らかな葉擦れの音が混じる。

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