一億円の契約妻は冷徹御曹司の愛を知る

 四角く角ばった輪郭のなかの鋭い双眸。白髪交じりの頭髪を撫でつけ、周囲を威圧するようなオーラをまとったまま近づいてくるのは――。

「親父……」

 低い声にわずかに苛立ちが混じっていて、心臓が小さく音を立てた。急激に張りつめた空気に、唇が乾いていく。

「なにしに来た」

「……話をしにな」

 雅臣のつっけんどんな言い方に対して、二條公親の答えは静かだ。

「話?」

 皮肉っぽく口角を上げる次男を横目に、二條家の当主は木漏れ日を揺らすハナミズキの前に立つ。供えられた花束を一瞥してから、手を合わせ、祈りを込めるように微かにうつむいた。

「ふん」

 なにを今さら。そうあざ笑うように鼻を鳴らし、雅臣がふたたび足を踏み出す。母親が眠る樹とその前に佇む父親から遠ざかろうとするシャツの背中を、思わず掴んだ。

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