一億円の契約妻は冷徹御曹司の愛を知る

 都内の最新設備が整った医療機関から地方の病院に転院させられたと聞いたことを思い出す。雅臣も同じことを考えていたのかもしれない。彼がぎゅっとこぶしをにぎって、私はつい手を伸ばした。きつく閉じていた大きな手が緩んで、私の指と絡む。

「依子は献身的な女で、体を悪くする前からよく支えてくれたよ。そして厳しい女でもあった。倒れたあとは、見舞いに行くと叱られたものさ」

 ――こんなところに来ているヒマがあるのなら、やるべきことをやってください。あなたの肩には、何万という人間の生活がかかっている――

 依子さんが口にしたというセリフを懐かしそうにつぶやいて、二條家の当主は空を仰ぐ。

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