一億円の契約妻は冷徹御曹司の愛を知る
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春らしい穏やかな陽気は二日しかもたなかった。二條家に乗り込んでから三日目の今日は、朝から風が少し冷たい。
午後五時、フロアに終業チャイムが鳴り響く。三十人を収容できる事務所は人がまばらだ。ほとんどの人は、併設された物流センターの方で管理作業にあたっている。つまり、この時間に帰るのは派遣社員の私くらいということだ。
「愛ちゃん、今日も病院寄ってくの?」
帰り支度をしていると、斜め向かいの席でパソコンと向き合っていた沢渡さんが声をかけてきた。『二條物産ロジスティクス』の社名ロゴが入ったジャンパーを羽織って立ち上がる。
「俺もちょっと倉庫見てくるかな。下まで一緒に行こ」
黒縁メガネの沢渡さんは白い歯を見せて微笑むと、フロアを出る私の横に並び立った。