一億円の契約妻は冷徹御曹司の愛を知る
入口手前から簡単に中をあらためただけで扉を閉じた彼は、振り返ってきょとんと目を瞬いた。
「どうかしたか?」
呆然と立ち尽くしている私に気づき、慌てたように戻ってくる。私の前でひらひらと手をかざしながら、長身を屈めて心配そうに顔を覗き込んできた。
「具合でも悪くなったのか? 熱中症か? 待ってろ、今水と帽子を取りに」
獣道に引き返そうとする雅臣のシャツをとっさに引っ張る。
ぱくぱくと口を開いても、空気しか出てこない。咳ばらいをしてどうにか発した声は、かすれていた。
「ここって、もしかして」
「二條グループの子会社が所有していた倉庫だ。お前の父親のアトリエに使われていただろ」
なんでもないように言われて、彼の腕を力いっぱい掴み直す。
「どうして、この場所を知っているの」
声を震わせている私を不思議そうに見下ろして、雅臣は説明しづらそうに頭を掻いた。